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光の旅人K-PAXから愛をこめて♪


by takozchan
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ここにいないあなたへ

辻 仁成の「ここにいないあなたへ」は、私の母がガンで逝った直後に広尾の青山ブック
センターで見つけました。その後、eizchanも同じようにガンに蝕まれ旅立ったあと、時々
誘惑される、一人ぼっちのセンチメンタルジャーニー!!
下北の果て近い町・むつ市の宿で、初めて食堂で出会った同宿の方々とビールをいただき
ながら、時間を忘れて話し込んだあの時間、やはり民宿にしてよかった!!
また想い出して、仁成さんの本を開いてみました。

空と海の青に染まる尻屋崎灯台
ここにいないあなたへ_e0099756_171890.jpg

ここにいないあなたへ   辻仁成=文

ここにいないあなたへ
民宿の夜は賑やかだったよ。
おふろは9時までだから、
食事がすんだらすぐ入らないと
入れなくなるんだ。
狭いおふろに、次から次に男たちが入ってくる。
裸のつきあい。
なんだか照れくさい。
八畳間に4人ほどの男性客が相部屋するんだ。
ツーリングしている男の子たちと一緒になったよ。
俺はどこどこの岬に沈む夕日が一番だと思う。
俺はあそこの浜が一番面白いと思う。
俺はあそこの原野が一番雄大だと思う。
俺はどこそこの森が一番鬱蒼としていると思う。
みんな一晩中、
自分が行ったところの自慢大会なんだ。
げらげら笑ったり、
くすくす笑ったり。
時々声が大きすぎて、民宿の人に怒られたりしながら、
まるで高校時代の下宿のよう。
ぼくは黙って安ワインを飲みながら、
彼らの話に静かに耳を傾けていたよ。
あなたにも紹介したいやつらばっかりだった。
若いくせに髭なんか生やしてさ。
ひさしぶりに寂しくない夜が過ごせたよ。

by takozchan | 2007-10-20 19:38 | *詩・歌