人気ブログランキング | 話題のタグを見る

光の旅人K-PAXから愛をこめて♪


by takozchan
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

『インパールの十字架』最終章

『インパールの十字架』最終章_e0099756_2325565.jpg

無名戦士の記録シリーズ 『インパールの十字架』 米良至剛著 最終章 

 私はビルマに私の小さな足跡を残してきた。すべては虚しい。その悲しみを越えて人生の黄昏に立った今、私は悲喜こもごもの哀歓の過去をインパールの空に向けて絶唱するだけである。
 敗戦後の日本を、マッカーサー元帥の占領軍が支配した時、猫も杓子も自由民主主義を唱えだした。それまでは自由主義も民主主義もご法度だった。やがて日本は経済成長を遂げ、繁栄した。誠に結構なことである。しかしこの繁栄もいつまで続くのだろうか。そこに奢りはないか。日本の経済の底は浅いように思えてならない。
 「政治家よ。心あらば豊かな先見性を持て、自己の肉体も財産も投げ棄て、国政に尽す気概ある政治家たれ」
印緬の亡骸は必死にそう叫べと私に訴え続ける。
 
 滂沱たる涙は、あの印緬の雨を憶い出して止めどもなく頬を伝う。世界平和のために、人類愛のために、そんな大言壮語を私自身言う資格もない。しかし頂門の一針になりうれば幸いである。ビルマの荒原に佇めば、今もなお真赤な夕陽はアラカンの山脈に、バガンの砂丘に、さまよえる兵(つわもの)の魂と共に、紅蓮の光芒を残して沈んでいるであろう。もはや言うべきことは尽きた。生々流転。インパール敗惨の十字架は一体誰が背負ったのか。私は忘れない。
 今は亡き地の果ての戦友よ。皆安らかに眠っておくれ。無理な注文だけど。
 日本を愛する人々よ、戦争とは残酷なものである。虚しく愚かなものである。40年を経た今も、私はあの印緬国境の硝煙と雨煙の中の、同胞の血の叫びをはっきりと思い出すのである。
『インパールの十字架』最終章_e0099756_0131430.jpg

 この書は、40年にもなろうとする昔の戦争の思い出を、まさに泡沫の如く消え去ろうとする戦地での青春の一駒を、せめて父母の霊前に供えて、我が子供達に書き残そうとしたものである。言ってみれば、私の3ヵ年の平凡な従軍記である。私自身のささやかな回想に過ぎない。しかしその真実の断片の節々に、戦争というものの愚かしさを感じとってもらえれば幸いである。それは反戦という旗を振る浅薄な思想ではない。極悪の戦地に身を委ねた者の願いなのである。
 余りにも戦争を知らない若い世代に、私の体験を通して何かを語り残したい。そんな気持ちになった。平和の鐘、いつまでも鳴り止まず。そうあって欲しいと心から懇願するからである。
 この書を散華されたビルマの全英霊に捧げる。                          おわり
『インパールの十字架』最終章_e0099756_0155124.jpg

   写真2枚は、「インパール作戦」~烈兵団コヒマの死闘~村田平次著 より
by takozchan | 2008-09-14 00:21